ショパンピアニズムの基礎 ① 「楽器と原理」

ピアノという楽器は、テコの原理と同じ構造を持っている。
鍵盤を下げると反対側にあるハンマーが上に動きピアノ線を打つのだ。
以前に比べると構造は複雑になり、ハンマーに力が伝わるまでにいくつかの段階を挟むが、基本は変わらずテコの原理である。

ロシアンピアニズム

ピアノの音量を決めているのは「ハンマーがピアノ線を打つ速度」であり、この速度が最も大切になってくる。
ハンマーの上がる速度を調整することに、テクニックの基礎があると言っても過言ではない。

もちろん調律師・ピアニストであればこのことは知っているのだが、この速度と打鍵の図式を以下のように理解している方がとても多いと感じる。

「ハンマーの速度を調整すること」=「打鍵の速度を調整すること」

ここに日本で主流のピアニズムとショパンピアニズムの違いがある。

ショパンピアニズムでは、ここに「重さ」の概念が入るのだ。

大事なことはハンマーの速度調整であり、いかに小さい運動でハンマーを速く動かせるかを考えると理想的なピアニズムが見えてくる。

物理で、「軽いもの」と「重いもの」では同じ速度であってもエネルギー量が違うと習ったはずである。
例)大型トラックと軽自動車が同じ速度で物体に衝突した時、どちらがより遠くに物体を飛ばせるかを考えてみると分かると思う。

上の例をピアノに置き換えるとこうなる。

打鍵する際の質量が大きいほど、ハンマーをより速く動かすことができる。

図式に示すとこうだ。

「ハンマーの速度を調整すること」=「質量の調整×打鍵の速度」

演奏時に使える重さは腕である。この腕の重さをいかに鍵盤に届けるかが重要になってくる。

また次回

白鍵の魔物

小さい頃は黒い鍵盤は使わずに白い鍵盤だけ使い初歩を学んだと思う。
しかしこの白い鍵盤=白鍵には、ピアノが上達すればするほど魔物が住みだす。

私の教室では、体と楽器の扱い方を学んでもらうために私が考案した黒鍵を使った練習を1−2ヶ月ほど必ずしてもらう。
その理由としては、一番美しい音が鳴るからだ。
ショパンやドヴュッシー、スクリャービンの曲に黒鍵が多いのは、ピアノが美しく鳴ることを分かっていたからだ。

ではなぜ美しく鳴るのか。それは弾く側の意識にある。

1オクターブは12音に分けられるが、白鍵が7音、黒鍵が5音だ。
見たら分かるが、白鍵は隣がずっと白鍵である。
一方、黒鍵は隣に黒鍵がなく白鍵を挟んで黒鍵がくる。

ここが重要なのだ。

黒鍵を弾く時は、隣の音を気にしなくていいので何の怖さもなく打鍵できる。
しかし白鍵は違う。
知らず知らずのうちに「隣の音を弾かないようにする」恐怖心が生まれているのだ。
ほとんどの人は、白鍵では肘が硬くなり耳が鍵盤に近い位置に落ちてしまう。

試しにオクターブを白鍵と黒鍵で弾いてみるといい。いかに白鍵の時に体が固まっているか体感できるだろう。

私は、この恐怖心を無くしてもらう為に皆さんに必ず次の練習をしてもらっている。

まず弾く白鍵の両隣の音をあらかじめ下に押さえておき、黒鍵のような状態を作ってもらう。
(レの音を練習する時は、レの両隣のドとミをあらかじめ下に押さえておくということである。)
両隣が下に落ちている状態だと隣の音を弾く恐怖心は全くないので、そこで正しい白鍵の弾き方を練習してもらうようにしている。

白鍵の扱い方には気をつけなくてはいけない。
一番難しい調性はハ長調なのだ。

ピアノの幻想

私は、何回目のレッスンであろうと、常に客観的であることを助言している。
自分自身も練習ではこのことを絶えず意識する。
楽器を扱うということは、楽器を知らないといけない。
指や腕でレガートをつないで弾く人がいるが、今の私からするとピアノに愛想をつかされているなと思う。
レガートを指や腕で繋いでいる人は頭の中でなっている音と実際ピアノから出てきている音が違うことを知らない。その事実を疑うことさえ人生でしてこなかったはずである。

これをまず気がつかせることからレッスンが始まるわけだが、それを意識してもらうためにハンマーの動きのことを最近は見てもらうようにしている。
幻想を持ってピアノを弾いている人は、指と指で音を繋ぐと音楽に合わせてハンマーやピアノ線も横のラインで繋がっていると感じている。そこで私がハンマーの動きという現実的な話をすると皆さん矛盾に気がつく。

どう指で繋げようが、どう腕を使って繋げようが、
ハンマー自体は常に下から上方向に動いてピアノ線を打つだけなのだ。

このことを正しく理解し実践し生徒に伝えられている教師が何人いるのだろうか。
一番大切なことは、指や腕ではなく、ハンマーとピアノ線であり、体の動きから音楽を作る発想の段階で本末転倒なのだ。楽器に体を合わせているのだ。

指や腕で滑らかに横につないでも、ハンマーは下から上。
この事実は決して変わらない。
ペダルを踏んでいれば、手を離しても音は切れない。変わらない。
変わっているのは自分の脳の中身だ。

ショパンピアニズムとは、動きに対して脳が邪魔されず絶えず客観的に音を聴ける状態を保てる演奏法なのだ。

レガートは耳以外では作れないことを理解しなくてはいけない。
演奏中に鍵盤から指が離れない人は、耳を使えていない証拠だ。
鍵盤に吸い付くように弾くことは、ピアノを理解できていない人の考えなのだ。
この幻想のせいで、どれだけ多くの人がテクニックの問題を抱えているのだろうか。

幻想の中でピアノを弾くことはやめなくてはいけない。
幻想から解放された時に、初めて現実の世界に幻想を作ることができる。

柔らかい音の出し方

多くの人が間違った感覚で柔らかい音を出そうとしていると思う。

柔らかい音は、弾いた後に手や腕を上の方向にふわりと上げることで表現できると思っているのではないか。

ここにとても大きな落とし穴がある。

私自身これが間違いであったと気がついたのは、20代の半ばである。
自分の手や腕の動きが脳の誤作動を生み実際なっている音と自分で聴こえている音に大きな誤差があることがわかったのである。

結論から言うと、下から上方向に打鍵することは、まずしない。
どのような弱い音柔らかい音であっても基本はピアノを打楽器として扱い上から下の打鍵で、「積極的に」作り出すのだ。

この積極的ということが、とても大事なのである。力の抜き加減や、腕の回し加減で柔らかさを表現するのではないのだ。

おそらく日本の教育現場でこのことを教えている方は、そういないだろう。まず教師自身が身をもって体現できていないと伝えることは不可能だからだ。
ピアノの可能性を引き出し、ピアノを歌わせるためには、語弊を恐れずに言えば

「ピアノを打楽器として扱う=上から下に叩かないといけない」

鍵盤から指を離さず、指が吸い付くようにとよく言われるが、鍵盤に指がついた状態から弾くことなど、ほぼない。

このことを理解できない方は、腕の重さなど使っておらず、間違いなく指でしかピアノを弾けていない。100年以上遅れた弾き方をしている。

黒木ピアノ教室 YOU TUBE動画チャンネルより

柔らかい音の出し方

 

ピアニズムの出発点

ピアノは打楽器だ。

小学校でも習うような内容だがこれを理解している人はどのくらいいるだろうか?

日本ではピアノが打楽器だという事を認めない弾き方をよしとしている。
歌うためには、ピアノが打楽器であったら駄目なのだ。

ピアノは打楽器であり、叩いて音がなり、レガートはそこから始まる。

まず出発地点が違うことが問題であり、それを良い音としてきた教師が未だに教育現場に大勢いる。日本はピアノの扱い方という面で世界に100年以上の遅れをとっている。

なぜ100年かというとショパンはすでにそうやって演奏していたからである。
ショパンがピアノのテクニックに大きな革新をもたらしたのだ。

日本はその革新前の弾き方をしている。

ショパンピアニズムでは、ピアノを歌わせるためにピアノを打楽器として扱う。
芳醇なレガートというのは叩くことから始まる。