自分の音に飽きる

私は自分の音に飽きることが多いと思う。その時は新しい音、音楽を求めて偉大な演奏家を参考にするのだが、その度に新しい世界が開き、自分の成長に繋がっている。

一つの音を使って音楽を追求することは、そんなに難しいことではない。私は完成された世界を求めることよりも様々な可能性を探してみたくなる。

自分の音に飽きる時は、決まって曲にとってふさわしくない音で演奏している時だ。どれだけ美しい音で弾いていても曲を魅力的に響かせられなければ、飽きるのだ。

音楽ではなく、音に飽きているのだ。

その曲を表現するには、違う音楽表現=違う音を探さないといけないということだ。
そして新しい音を捕まえると、以前やった曲にも良い影響を与える。複雑な表現が可能になり曲の世界観が広がるのだ。

音楽の勉強法がようやく分かってきたように感じている。

今の音楽会を見ると同じ音で全ての曲を演奏している方がほとんどだと感じる。
音を見つけることは、単にタッチを変えることでない。響を作る位置、発音の仕方、和声の作り方を見つけることだ。

タッチを変えるだけで音色を変えている認識の方が大半だと思うが、そうではない。
私も以前の弾き方をしていたら気がつくことはできなかった。

ショパンの演奏法に出会えてよかったと心から思う。

響の下に行かない

ピアノを弾いている時、響きをどこの位置で聴いているかということは最重要事項である。

耳の使い方を知らなくてはホールで響き渡るレガートを実現することは不可能に近い。

よく勘違いされがちな考え方がある。

 

音をピアノからホールに向かって音を届けるというものだ。

 

これはほとんどの教育現場で教えられていることではないだろうか?

この考え方では、まず響かない。そしてこの方法で演奏している人は音を広げようと肘や頭ががぐるぐると回り出すのだ。

ではどういう考え方で聴くのか。

 

  • 耳の位置を高いところに置き、そこから指揮者のように全体を常に聴いている感覚。

  • ピアノからホールではなく、すでに空中で音が響いているという感覚。

 

その時に大事なのは、自分が響の下に行かないことだ。常に全体を見渡すように聴いていなくてはいけない。

この感覚は、正しいピアノの扱い方・体の扱い方をしていないと実感することは不可能であるが、これがわかった瞬間に音楽の可能性が無限に広がるのがわかるだろう。テクニックというのは、言語化することに大きな意味があり、耳の使い方はテクニックである。

 

黒木ピアノ教室 YOU TUBEチャンネルより

響きの聴き方

単音を美しく弾くには

1音を美しく響かせるには、その音だけを見つめていたのではダメである。

1音を響かせるためには、その背後にある和声を見つめないといけない。

例えば愛の夢の出だしは、メロディーのEsの音だけで始まる。この出だしの音は何としてでも美しく響かせたいのだが、それを可能にするためにはこの音だけを見つめていたのではダメなのだ。

このEsの背後には他にAsとCの音が隠れており、その変イ長調の一度の和音の響きの中にEsの音を響かせる発想がなくてはいくら頑張ってもダメなのである。

この時に重要なのは、手の中の状態であるが、それはショパンピアニズムを勉強している人でないと理解することは不可能であろう。一度の和音の中で弾くといっても、そう思えばできるものではなく、人差し指を手の軸としてテクニックを捉えており、なおかつピアノの扱い方を完全に理解した上で、さらに手の中のテンションを操って初めて達成されることである。

和声の響きは、頭の中にも空中にも手の中にも存在していなくてはならない。

 

 黒木ピアノ教室 YOU TUBE動画チャンネルより

単音の弾き方

1音目が大事

ロシアンピアニズムの理解が深まると、人の演奏を聴く際に、次のフレーズがうまくいくかいかないか、そのフレーズの1音目を聴いただけでわかるようになる。
1音目を響かない音で弾いてしまうと、その後のフレーズはどう頑張っても美しく響くことはない。

手というのはバランスを自動的に取ろうとするので、

美しくない音=効率的でない手の使い方

で1音目を始めてしまうと、その後の音は全て同じ手の使い方=美しくない音になってしまう。
逆に言うと1音目さえ美しく響けば、その後は何も考えずとも美しく演奏できるのだ。

多くの人は、フレーズの作り方と音質の関係の理解ができていない。
フレージングに問題があるのだはなく、手の使い方と音質に問題があるのだ。

徹底して1音を磨くことで、ほとんど全ての事柄が解決してしまう。
この事実を少しでも多くの方に伝えたいと思っている。

腕の軸

テクニックを考えるにはまず体の構造を知る必要がある。
体には軸があり、その軸を中心に動かしている。
体全体だと背骨が軸だと言える。

ネイガウスも次のように言っている。

人間の手には、芯、軸があります。この周りを、手は動くことができます。

*ネイガウスのピアノ講義より引用

では、腕にとっての軸とはどこだろう。

人差し指が腕の軸である

これを理解していなければテクニックを指のみの力で解決しなくてはならなくなる。
親指を使う時も、小指を使う時も、この人差し指が軸にあるという考え方がなければ音は美しく響かない。おそらく日本でピアノを習ったほとんどの人は、親指が軸にあるかと思う。
いかがだろうか?