親指は他の指と違う。
この指は見るからに特殊な指であり、使い方にも気を配らねばいけません。
親指というのは本当に厄介な指で、少しでも使い方が間違っていると他の指全てに影響が出て来るのです。
人間の体は自然にバランスを取ろうとする働きがあります。
それは体のいたる所に存在する働きです。
親指が力んでいれば、他の指も同じだけ力み、
親指の指先でピアノを弾く意識があれば、他の指も指先で弾いてしまいます。
注意することは、親指をどこから使うかということです。
「親指の付け根」も他の指と同様に手首にあります。
この「付け根」を意識すると使い勝手は劇的に変わります。
そして「音」も「音楽」も変わります。
それには脳が大きく関係しています。
指先に意識がある時と、付け根(手首)から動かす意識の時では、脳の感覚が違うはずです。
指先に意識があると脳は緊張を覚えますが、付け根から動かすと脳は緊張しません。
細かい運動というのは脳が多く働きます。その時、動きに集中している脳は、耳の働きをおろそかにします。
耳の働きが低下すると、「広がっていく響き」が聴き取れず「ピアノの近くで鳴っている音」で音楽を作ってしまいます。
そういう音で作る音楽は、色彩を感じない強弱だけの世界になってしまうのです。
付け根から動かすイメージを持つことは、どのような運動をするにしても体が滑らかに動くための必須条件です。
歩くときに足の指を意識して歩く人はまずいないと思います。付け根から動かしているはずです。
そうすることにより、人間が本来持っている円運動がスムーズに行えるようになるのです。
円運動というのは、「重力」が「重さ」のある物体に与えた自然な動きなのです。
ショパンピアニズムが「重力奏法」や「重量奏法」とも言われる理由はここにあります。
ピアノは私たち日本人が思っているほど、指先の独立や器用さというものは必要ないように思います。