声楽家は毎日のように発声練習をし自分の一音一音の響きにこだわり声の質を高めていく。
声楽家のように私たちピアニストも自分の声となる音を磨いていかないといけない。
ピアニストも同様に自分の音と深く向き合う必要があると思う。
多くのピアニストは、きちんとした発声が出来ていない音で曲を歌ってしまっているように感じる。
それは、ピアノは誰が弾いても調律された整った音が出てしまうため、音質というものに他の楽器奏者より鈍感なのだ。
だからピアノという楽器は積極的に音と音を共鳴させないといけない。
共鳴させるということを意識するには、一音一音が豊かな響きを持っていないといけなく、そうした音が出て初めて音同士はお互いに結びついていく。
響きがない音というのは、何の楽器でもそうだがハーモニーを作れないのだ。
ハーモニーというのは調和なのである。
この共鳴させる感覚というものは、和音を強弱のバランスで捉えている人には決して分からない感覚である。
ピアノは強弱ではなく、一音一音が持つ響きの量でバランスをとらないといけない。強弱で作る音楽はホールでは決して響くことはない。
一音一音が響きを持つ音というのは、中心となる音の核がありその周りを響きが覆っている音。
核になる音が重力を持っており、その周りを響きが覆う。
まさに宇宙を連想させる響きなのだ。
この音を一度でも体現できたら、曲解釈においてのほとんどの問題が解決していく。
この現象は今までの自分では考えられなかったことだが、良い響きで演奏すると自然と何も考えずとも曲が目の前に立体的に現れるのだ。
そこには以前あったような作為的な音は一音も現れず、まるで自分で弾いていないような感覚さえ覚える。
これを初めて味わった時、「再現芸術」という意味が理解できた。
まずは自分が信じてきた音の概念を捨ててみる。これはとても勇気がいることだが、同じことを続けていても上の世界には辿り着けない。
私も自分の音と向き合いながら、もっと上質な響き音楽を目指して自分を捨て続けたいと思う。