1音を美しく響かせるには、その音だけを見つめていたのではダメである。
1音を響かせるためには、その背後にある和声を見つめないといけない。
例えば愛の夢の出だしは、メロディーのEsの音だけで始まる。この出だしの音は何としてでも美しく響かせたいのだが、それを可能にするためにはこの音だけを見つめていたのではダメなのだ。
このEsの背後には他にAsとCの音が隠れており、その変イ長調の一度の和音の響きの中にEsの音を響かせる発想がなくてはいくら頑張ってもダメなのである。
この時に重要なのは、手の中の状態であるが、それはショパンピアニズムを勉強している人でないと理解することは不可能であろう。一度の和音の中で弾くといっても、そう思えばできるものではなく、人差し指を手の軸としてテクニックを捉えており、なおかつピアノの扱い方を完全に理解した上で、さらに手の中のテンションを操って初めて達成されることである。
和声の響きは、頭の中にも空中にも手の中にも存在していなくてはならない。