教師ショパンは生徒たちに自分の持っているピアノに対する知識は惜しげも無く伝えていたようだ。ショパンは打楽器であるピアノに声楽的表現を可能にしようと独自のピアニズムを開発したわけだが、特に手首の使い方には注意を払っていたようでこのような言葉を残している。
手首の動き、それは声楽における呼吸である。
この言葉は日本でもよく聞くが、正しく理解できている方はほとんど会ったことがない。
多くの場合、鍵盤に指がついた状態から弾き始め、弾いた後に手首を使っている。
そうではなく、鍵盤に置いた指を手首と共に弾く前に持ち上げて、そこから息を吐くように打鍵することこそが本来の意味である。
このことをショパンの生徒であったグレッチはこう説明している。
大歌手を手本にしてピアノを弾くという原則を実行するにあたり、ショパンはピアノで息遣いを表現する秘訣をつかんでいたのです。歌手が息を吸う時には、手首を上げた後に、それができるだけ柔らかく歌うように弾くべき音の上におりていかねばならないのです。
*弟子から見たショパンより引用
特に日本では、弾く前は鍵盤についた状態で始まり、弾いた後に手首を上にあげる演奏を多く見る。それではたった2つの音を繋ぐことさえ不可能であり、本人とそれを教えた教師だけが繋いだつもりになっているのだ。
ショパンのレガートは打楽器としてピアノを扱うことから始まる。つまり空中から弾くべき音の上に降りてきて初めて可能になるのだ。
ピアノは打楽器である。ショパンはそれを誰よりも把握していた。そして誰よりも歌手に近づけた。