楽器と体の仕組みを把握でき始めてからは練習内容が大きく変わった。
今の感覚からすると以前の練習は指の運動をしていた。
オリンピックに出るアスリートのごとく、本番で最高の運動能力を発揮できるように日頃から鍛えている感覚だ。
今はと言うと、毎日2−3時間も練習すれば良い方で、そのほとんどが音を聞く作業である。
テクニックの練習などほとんどない。それでも弾けるのである。
練習では、主観的になってしまっている部分を見つけ、その主観を響きで表現できるように指使い、タッチ、ハーモニーを徹底的に見直す。
生徒にもリズム練習などまずやらせない。弾けない箇所というのは、楽器の扱い方か体の扱い方がおかしくなっているところであり、指の問題ではないからだ。
練習とは主観の全てを客観に持っていくことであり、肉体と音楽を切り離していく神聖な作業のようにも感じる。