ショパンの書いたメソッド本を読んでいると、現代では良くないとされることが多く書かれている。
特にレガートの意識は現代とは大きく違う。
レガート=「指で繋いで」「腕の動きで繋いで」と思われている方が多くいる。
ショパンはどう考えていたか。
彼のレガート奏法の基礎は、なんとスタッカートから始まる。
ショパンが考案した基本ポジション「ミ・♯ファ・♯ソ・♯ラ・シ」を一音一音スタッカートで弾いていくのだ。
そして段々と音価を長くしていく。
レガートを指でつなぐという発想からは生まれもしない練習だ。
彼のレガートの本質は柔軟な手首とペダル、そして耳の使い方にあるのだ。
彼の曲をペダルなしで考えることは不可能である。
そしてペダルに含まれた柔らかい倍音の中、耳でレガートにしていくのだ。
彼のレガートは鍵盤の上には存在せず、空中に存在しているということである。
日本でここまで指レガートが流行る原因を考えてみた。
一つは日本で主流となっている弾き方がドイツ式フランス式であること。
もう一つは音が響かない部屋で練習していること。
特に二つ目の影響はとても大きく感じる。
ヨーロッパの部屋は日本と比べ物にならないほど響き、空気も乾燥しており音がよく振動する。
日本の部屋は住宅事情もあるが、吸音する材質の部屋にピアノが置いてあり倍音が全く響かないのだ。
こういう部屋で練習していると、すぐに減衰する音を補うために「指レガートが大切だ!」と考えても仕方がないかもしれない。
私たちはクラシック音楽を身近に感じているが、実際には日本の国民性や伝統からは生まれなかった文化である。それを考えると自分が正しいと思っている知識で片付けるのではなく、先人達が行なっていたピアニズムを調べてみることは大事だと感じる。
ロシアの大教師、ゲンリヒ・ネイガウスもショパンのメソッド本を読み、感動を覚え研究したと書いていた。
レガートを指の問題で片付けている限りは、ピアノは歌わない。
鍵盤を意識せずに済む体の使い方をし、空中で響く音を混ぜながら繋いでいく。
身をもって認識したことだ。