美しい音を出すときに最も大切なのは音の出口を考えることだ。
音の出口を考えると音の入り口も変わってくる。
例えて言うなら洞窟である。
今から入ろうとする洞窟があり、一つは出口がわからない洞窟。
一つは出口を把握している洞窟。
この二つで大きく変わることは、入る時の緊張感である。
出口を知らない場合は、入るときに足がすくむが、出口を把握している場合は、緊張感なく入ることができる。
出口を知っていると言うことは、入り方が変わってくるのだ。
音でも同じことが言える。
出口がない音というのは、音に緊張感があり色彩がない演奏になる。
では音の出口というのは何なのか。
それは弾いた後の手首の動きが大きく関わってくる。
腕の重さを利用して演奏しても、弾いた後の手首の動きが伴っていないと音に色彩感覚は出て来ない。
ショパンピアニズムでは、弾く前と弾いた後の意識を常に持つのだ。
その意識は手首が支配しており、全ての動きは手首で始まり手首で終わらないといけない。
ショパンピアニズムにおいての手首は、エンジンである。
空中から鍵盤の上に腕の重さを手首の動きを伴って乗せて後、手首は手前に引っ張るのではなく斜め上(鍵盤の蓋側)にあがるのだ。
ここが音の出口である。
手首を手前に引っ張る演奏もあるが、それは意識が指先にある人の場合だ。
手前に引いてしまうと響きを作る位置が低くなってしまう。
もう一段階美しい響きを出すためには指先に意識はない。
それが達成できて初めて斜め上の意識が理解でき、空中に美しい音が響き出す。