ショパンピアニズムの基礎 ⑤「手首の使い方」

前回、ショパンピアニズムの基礎④「打楽器ピアノ」の続き

ピアノの打楽器としての特性を理解し打鍵の際の指の意識を確認できたなら、いよいよ手首の使い方に入っていく。
ショパンの時代から現代まで、多くの名ピアニストは手首についてこのように語っている。

「手首はピアノを弾く際のエンジンだ」

この感覚を理解した時、驚くほどの自由を獲得することができる。
自由の獲得とは「弾く意識」をほとんど持たないで演奏できるということである。
つまりは演奏行為に意識を捉われず、冷静に音楽を聴き、音楽を考え、その音楽に心を燃やすことができるということである。

手首の使い方は前回の記事で述べた通り、指がバチであるという考え方をしたら答えが見えてくる。
実際にバチを手に持って叩いてみると良いかと思う。

バチで打つ前に腕全部を上に持ち上げ、腕を下ろす動作と一緒に手首を柔らかく使う。
打楽器として扱うと、腕全体手首、2つの動作を連動させることが体感として分かると思う。

これはピアノでも同じである。
ピアノでは指がバチであり、腕と手首は同じ動きを使うのである。

よくある演奏法では「弾いた後に手首で力を逃す」使い方があると思う。
日本でよく目にする奏法である。

ここに落とし穴がある。
腕の重さを鍵盤に柔らかく届けるには、この手首の使い方ではできないのだ。

手首は、「弾く前」「弾いた後」どちらとも使うのだ。

弾く前の手首の動きは、人を呼ぶときの「手招き」する動きを使う。

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「腕全体の動き」と「手招き」の動作を連動させ、腕の重さを鍵盤に届け後は、手首を「斜め前」に持ち上げる。
この「弾く前」と「弾いた後」の動作をセットとして考え徹底して磨いていくと、手首がエンジンという言葉の意味を体感できるだろう。

詳しくはYouTube上で説明していますので、コチラからご覧ください。
腕全体と手首の動きがわかったなら、基礎的な手のポジションを知らなくてはいけない。

また次回

ショパンピアニズムの基礎 ④「打楽器ピアノ」

前回ショパンピアニズムの基礎③「企業秘密」の続き

腕と手首の使い方を学ぶには、まずは楽器のことを知らなければならない。
ピアノは歌手のように歌うこともできれば、オーケストラの様々な楽器の音を再現することもできる。
どのようにも姿を変えることのできる楽器であるが、ピアノは打楽器なのだ。
小学校で習う内容であるが、ピアノが打楽器であると意識している方は少ないのではないだろうか。
それがよく分かる言葉がある。

鍵盤を叩かないで

この言葉をどれだけ聞いたか分からない。そのくらいピアノは叩いてはいけない楽器なのだ。
打楽器で叩いてはいけないというのは、実はとてもおかしな話なのだ。

しかし、現に上から叩くと嫌な音がなる。その原因はとても単純なところにある。

ピアノを木琴・鉄琴に置き換えると分かりやすい。木琴・鉄琴を鳴らすにはバチがいる。
木琴・鉄琴を鳴らす上で、打楽器奏者が絶対にやらないことがある。
それはバチの先端を意識して叩くことだ。
バチの先端を意識して叩くと誰が演奏しても嫌な音がなる。打撃音に変わってしまうのだ。

ピアノでいうとバチは指である。バチの先端に意識があるということは、指先に意識があるということである。
指先に意識がある段階で、打撃音に変わってしまうのだ。これが鍵盤を叩いてしまう人の原因である。

つまり、ショパンピアニズムではピアノを弾くときに指先の意識はないのだ。
指先に意識を持たないというのは技術であり、これが身につかなければショパンピアニズムは達成できない。

このことを体感的に分かる方法がある。以下の実験をしてもらいたい。
消しゴム付きの鉛筆を用意してもらい、ゴム側で以下の画像のように打鍵するのだ。

その時に、鉛筆の先に意識を持って打鍵するのと、意識を持たないでピアノを打楽器だと思って打鍵する2種類を試してほしい。
いかに先端の意識が音を汚くするか理解できるかと思う。

そしてこの時の腕の動き、手首の動きを指で打鍵する時にも取り入れるのだ。
ピアノが打楽器であると理解することは、ショパンピアニズムのとても大切な基礎である。

YouTubeの動画で以上のことを詳しく説明しているのでコチラから合わせてご覧ください。

この意識を持てたなら、ショパンピアニズムの第一歩を踏めたのだ。
以上のことを踏まえた上で詳しい手首の使い方を知らなくてはいけない。

また次回

ショパンピアニズムの基礎 ② 「腕の重さ」

前回ショパンピアニズムの基礎①の続き

ハンマーを効率的に動かすためには腕の重さを利用しないといけない。その腕の重さがどれだけあるかを知る方法がある。
それは下の画像で示したように指を使わずに手首の下で打鍵してみるのだ。

詳しい動きはコチラからYouTube上でご覧になれます。

その際、肘や肩を最も自然な位置に配置した上で腕全体を動かすように打鍵することを注意してほしい。
どうだろうか、軽く押しただけでも十分な音量が得られたのではないだろうか?

今やっていただいたのが重さを使った打鍵である。腕の重さを使えたなら実践してもらったようにユックリ打鍵してもピアノがなりきるのだ。

この重さを鍵盤に届けるというのがショパンピアニズム・重力奏法の根源である。

ではこの腕の重さは、鍵盤に届くまでにどこで無くなってしまっているのか。
それが「手首」である。詳しくは上記のYouTube動画で説明している。

前回も述べたように、一般的な奏法の「脱力」を意識していては手首で重さが分断されてしまい、腕の重さを鍵盤まで届けることができないのだ。

手首で分断されずに重さを届けるには、まずは手のひらの使い方を知らなくてはいけない。

また次回

ショパンピアニズムの基礎 ① 「楽器と原理」

ピアノという楽器は、テコの原理と同じ構造を持っている。
鍵盤を下げると反対側にあるハンマーが上に動きピアノ線を打つのだ。
以前に比べると構造は複雑になり、ハンマーに力が伝わるまでにいくつかの段階を挟むが、基本は変わらずテコの原理である。

ロシアンピアニズム

ピアノの音量を決めているのは「ハンマーがピアノ線を打つ速度」であり、この速度が最も大切になってくる。
ハンマーの上がる速度を調整することに、テクニックの基礎があると言っても過言ではない。

もちろん調律師・ピアニストであればこのことは知っているのだが、この速度と打鍵の図式を以下のように理解している方がとても多いと感じる。

「ハンマーの速度を調整すること」=「打鍵の速度を調整すること」

ここに日本で主流のピアニズムとショパンピアニズムの違いがある。

ショパンピアニズムでは、ここに「重さ」の概念が入るのだ。

大事なことはハンマーの速度調整であり、いかに小さい運動でハンマーを速く動かせるかを考えると理想的なピアニズムが見えてくる。

物理で、「軽いもの」と「重いもの」では同じ速度であってもエネルギー量が違うと習ったはずである。
例)大型トラックと軽自動車が同じ速度で物体に衝突した時、どちらがより遠くに物体を飛ばせるかを考えてみると分かると思う。

上の例をピアノに置き換えるとこうなる。

打鍵する際の質量が大きいほど、ハンマーをより速く動かすことができる。

図式に示すとこうだ。

「ハンマーの速度を調整すること」=「質量の調整×打鍵の速度」

演奏時に使える重さは腕である。この腕の重さをいかに鍵盤に届けるかが重要になってくる。

また次回

ショパンピアニズム・重力奏法

ホロヴィッツ、アルゲリッチ、ランラン、プレトニョフ、ギレリス、ソコロフ、ソフロニツキー

彼らは、国籍や音楽観は違えど同じ体の扱い方・楽器の扱い方で芸術を生み出している。

日本ではショパンピアニズム、重力奏法、重量奏法などで知られているが、この奏法は日本で禁止されていることだらけであり、実践しようものならすぐに注意を受ける。

小さい頃、私は上に書いたピアニストの演奏が大好きであり、子供ながらにも音楽が歌っていると感じていた。
今は彼等が同じ楽器の扱い方をしていたのだと分かるが、当時はただ魔法にかけられるだけだった。

彼らは座り方も弾き方も全然違って見えるが、体の扱い方と楽器の扱い方の意識が共通している。

彼らの演奏時の手を観察していると、日本で教えられているような指を上げ下げする動きはせず、指自体はほとんど動いてない。その代わりに手首と腕が上下しているのがわかるだろう。
これは楽器の扱い方、腕の重さ、手の筋肉、手首、肘の使い方を知らなければ不可能なことである。

ピアニズムの研究を始めると、それまでと体の使い方と楽器の扱い方があまりにも違い、戸惑った。

ピアノを弾くのに指を使わないのだ。

黒木洋平ピアノ教室 ショパンピアニズム モダンピアニズム

戸田駅徒歩1分 池袋/新宿/赤羽/大宮からも埼京線でいらしていただけます