ペダリングについて

ペダルはピアノの命だ ホロヴィッツ

ピアノを弾くものならばペダルの扱い方を徹底的に学ばなければならない。
しかし多くの教育現場でペダルの扱い方が誤解されているように思う。

ペダルは、音を響かせるものではない。

ペダルの本来の目的は音と音に遠近感を持たせることだ。

特に音が低くなればなるほど、ペダルの効果は発揮される。

そして遠近感を意識して演奏されると、ただ音が響くのではなく音と音が美しく混ざり合い、ペダルを踏みっぱなしにしていても濁らないのだ。

ペダルが濁ることが悩みの方は、ペダルを踏み変えるタイミングが悪いのではない。
「楽器の扱い方」「体の扱い方」を知れば、同じペダリングでも濁らなくなる。

このことを初めて体験された方は、不思議な顔をする。
同じペダリングでも濁らず逆に美しく響き渡るからだ。
ペダルの使い方を知らなければ、真に美しく響く音楽を知らなければ、一生ピアノの美しさを知らずに終わってしまうかもしれない。

ペダルは命である。

ピアノの特性

ピアノは打楽器である。

これを理解せずにはテクニックは始まらない。
打楽器ならばどのようにしたら美しく鳴るのか。打楽器ならばどのようにしてレガートを作るのか。

当教室では、まずはピアノが打楽器であるということを知ってもらっている。

その第一歩として指一本と黒鍵を使った独自のトレーニングを取り入れているのだが、今の所この方法でピアノの特性を小さい子から大人まで理解してもらえているように感じる。いかに早くピアノの特性に気づかせてあげられるかを、これからも絶えず考えないといけない。

黒木ピアノ教室 YOU TUBEチャンネル より

黒鍵の練習

ピアノの構造と演奏方法②

前回の投稿でピアノの構造・鉄琴奏者に学ぶことを書いた。

詳しくはこちら

これらの考えがショパンピアニズムとどう関係あるのか、それはロシアの教育を見ると分かる。

レガートは鉛筆で

ロシア人のレッスンを受けると鉛筆でメロディーを弾くことがある。
消しゴム付きの鉛筆の消しゴムの部分でメロディーを弾かせるのだ。

その次は指一本で。

この発想は、ピアノが打楽器であることを理解した上で生まれたものだ。

つまり

自分が鉄琴奏者だとして、バチ一本でレガートをすると考えると、このピアノの扱い方の発想が生まれるのだ。

ピアノが打楽器であるという発想が日本の教育現場には、驚くほど浸透していない。

ピアノは打楽器である。そしてそのことを理解しない限りレガートを描くことは不可能である。
まずはピアノに向かう前に鉄琴でメロディーを弾いてみよう。

鉄琴はペダルがついており、ペダルを使用した上で上手く叩ければ美しいレガートを作ることが可能である。

レガートは動きで作るのではない。レガートは耳で作るのだ。

ピアノの構造と演奏方法

ピアノはシーソーであると、以前このブログでも書いた。
これは重さとハンマーの速さの関係を分かりやすくするために、今でも生徒によく説明する。
詳しくは、こちらから

今回は、ピアノを弾く時の感覚を他の楽器に例えて書いてみようと思う。

ピアノは打楽器である

ピアノは分類上、打楽器に分けられる。
しかし私達がピアノを扱う時に、打楽器としての意識は持っているだろうか?

ピアノの構造を考えると、ハンマーが弦を打って音を出すので打楽器だ。
この構造をきちんと理解するとピアノの効率的な扱い方は、自ずと見えてくる。

音が出ない・音色が出ない・響かない

これらの問題を抱える人というのは、鍵盤を下から上に捉えている人が多い。

鍵盤にぶつかって嫌な音が鳴らないようにと、肘や手首の動きを使いながらこのように弾くのだ。

しかしピアノは打楽器である。

鉄琴奏者に自分がなったと思い考えてみるといい。

鉄琴奏者がバチを使って鍵を叩く時に、嫌な音がしないように下から上に演奏することがありえるだろうか。
鉄琴奏者は効率よく響かせるために、手と腕をリラックスさせ、上から下方向にバチを使う。

その際、打った後に肘を外側に出す奏者はまずいない。

この重力を使った自然な落下を使わずしてこの種の打楽器を扱うことは不可能である。

ピアノも鉄琴と同じである。弾く時には、手と腕はリラックスし重力方向、つまり上から下に打鍵するのだ。
どうも日本のピアノ教育は、この基本的概念が抜けている。

上から落とすと嫌な音が鳴ると勘違いしているのだ。

上から弾いて嫌な音がなるときは、鉄琴で演奏しても嫌な音がなるときと同じである。

つまり

・手と腕が力んだ状態

である。

そして演奏方法も鉄琴奏者に見習うべきなのだ。

・手首のスナップを使う(自然な円運動ができる)
・肘はリラックして自然な状態
・バチは柔らかく握る

これら全てはピアノ演奏において大きく役立てられる。

腱鞘炎の原因

こういう音を出したいと強くイメージがあり尚且つ練習時間が多い人に、腱鞘炎は多く発症します。

これは、奏法に誤りがある場合での話です。

普段の生活をしていて腱鞘炎になる人はいないと思います。
それは手にとって無理がある動きを行わないからです。

手にとって自然な動きとは、

・つかむ
・つまむ
・ひねる

これ以外の動きが不自然な動きになるわけです。

不自然な動き、それは

・反る
・力む

上記のものが腱鞘炎の原因の大部分です。

指を上に持ち上げる動き、実はこれも「反る」の一つです。そしてもちろん「力む」がないと叶わない動きです。

私は以前、腱鞘炎に悩まされていました。ですのでどれだけ辛いのかよくわかります。
そして原因もよく分かります。

私の場合、pやppの表現を練習している時によく発症しました。これは指を上げ下げしていると同時に緊張を高めて弱い音を弾いていたためです。

指を上に上げないと鍵盤が下に下がったままじゃないか!

と思われる方がいるかもしれませんが、それは鍵盤を前後に使っていない証拠です。
鍵盤は左右はもちろん前後にも使わなくてはいけません。そうすると指は上げなくても勝手に鍵盤から離れるのです。

腱鞘炎になりやすい人の特徴で、腕全体を使って「音をピアノから上方向に響かせよう」とする人が上げられます。
この腕全部を外側に大きく使った弾き方はピアノの構造を知らない人の演奏の特徴であり、自分の音と体の悲鳴が聞こえていない人の特徴でもあります。

自分もそのように演奏していましたが、他のピアニストの方でもこの根本的な間違いのせいで腕を痛めている姿を多くみました。
ピアノの鍵盤は下にしか下がらず、音はその間でなります。そこに意識を張り巡らせないといけないわけです。
鍵盤を下げた後に腕や体の動きを使って、音をつないでいく演奏法は情熱的に弾いているように見えますが、聴衆にはその熱い姿しか映りません。

「ピアノの構造」と「手・腕にとって自然な動き」を突き詰めていったところにショパンピアニズムはあります。

ショパンが当時流行っていた独立器具を「散歩するのに逆立ちの練習をしているようなものだ」と皮肉った事は、現代でも同じではないでしょうか。

この独立器具、かのフランツ・リストも熱中し、のちにこういった練習が誤りだったと書いております。
ショパンはピアノと腕の構造、重力、重量の使い方を本当に熟知していました。

「ピアノの構造」と「手・腕にとって自然な動き」この二つを理解できた時、私は腕の悩みから解放され一切痛めることはなくなりました。
ですので腱鞘炎になるようでしたら、奏法を根本的に見直してください。

私は腱鞘炎に悩まされていなかったら、この音・響きを体現できていなかったかもしれません。