最近の私

久方にブログを書くと思うが、書かない理由があった。
ピアニズムを研究している上で定期的にやってくるテクニック改新があったからだ。

研究するということは今の自分を壊し続けていくのだが、私はそのことに非常な喜びを感じる。
壊し続けていく中で新しい発見があると、夢中になり友人や生徒にもそれを共有して意見を聞く。
今回は重さの使い分けと虫様筋の役割を見直す良い機会であった。
タッチがより鮮明になり、音は微妙な色彩を纏い出したと感じる。

私はテクニックを考える際、守るべき大きな軸を2つ置いている。

1つ目は耳の客観性であり、耳が客観性を失ってまで求めるタッチは存在しないと思っている。
ピアニズムの研究では耳がリラックスした状態を常に維持したままタッチを模索していく。

2つ目はピアノを打楽器として扱うことであり、ショパンとネイガウスが本に書いている通り、基本的には弾く前に鍵盤から指を離して演奏する。

以上の2つを軸にしており、ここには揺るぎない確信を持っている。

今回のテクニック改新では、重さと打鍵スピード、虫様筋と前腕屈筋の使い方が細かく分類され、小さい子供にも的確に指導できるようになったと感じる。特に重さの使い方を明確に3段階に分けられたのは大きな収穫である。

より簡潔に多くの人に伝えられるように、また日々のレッスンや演奏を通してロシアピアニズムについて考えていきたい。

ショパンピアニズムの基礎 ⑥「基本の手のポジション」

前回、ショパンピアニズムの基礎⑤「手首の使い方」の続き

腕の重さの使い方を知ったら、次は基本の手のポジションを学ばなければならない。

ロシアンピアニズム,ロシアピアニズム

一般的な基本のポジションは、

「ド」「レ」「ミ」「ファ」「ソ」に5指を丸めて置くものである。
その際、1〜5の指を曲げて全てが同じ長さになるように調整する。
そして指が鍵盤に対してまっすぐになるように配置する。
これが一般的なポジションであり、多くの人がこのように習ってきたはずである。

 

しかしショパンピアニズムでのそれは全く違う形をとる。

ロシアンピアニズム,ロシアピアニズム

ロシアンピアニズム,ロシアピアニズム

ショパンピアニズムでの基本のポジションは、

「ミ」「#ファ」「#ソ」「#ラ」「シ」に5指を置いた状態にするのだ。
その際、1〜5の指は曲げたりせず、最も自然な形のまま鍵盤に置く。
肘を外に出さずに自然にこのポジションに置くと、指は鍵盤に対して斜めに配置される。
手を左右のどちらにも傾けずに配置すると、小指が鍵盤に触れた時には親指は鍵盤から離れた状態になる。

これがショパンピアニズムの基本的なポジションである。
演奏中は、このポジションに置いた手のバランスをなるべく保つようにする。
そうすることで驚くほどの手の柔軟さが手に入る。

どこからこの基本ポジションが生まれたのかと気になるかと思う。
実は200年前にショパンが考案したものであり、この発見がいかに天才的であったのかはピアニズムを習得している者でなければ知る由がないだろう。
詳しくショパンの教授法を知りたい方は、以前書いたこちらの記事からご覧ください。

このゲンリヒ・ネイガウスはこのショパンが考案した基本ポジションを、
「試金石」「コロンブスの卵」と形容していた。

基本の手のポジションが分かったら、次に演奏時の鍵盤の扱い方を知らなければならない。

また次回

ショパンピアニズムの基礎 ⑤「手首の使い方」

前回、ショパンピアニズムの基礎④「打楽器ピアノ」の続き

ピアノの打楽器としての特性を理解し打鍵の際の指の意識を確認できたなら、いよいよ手首の使い方に入っていく。
ショパンの時代から現代まで、多くの名ピアニストは手首についてこのように語っている。

「手首はピアノを弾く際のエンジンだ」

この感覚を理解した時、驚くほどの自由を獲得することができる。
自由の獲得とは「弾く意識」をほとんど持たないで演奏できるということである。
つまりは演奏行為に意識を捉われず、冷静に音楽を聴き、音楽を考え、その音楽に心を燃やすことができるということである。

手首の使い方は前回の記事で述べた通り、指がバチであるという考え方をしたら答えが見えてくる。
実際にバチを手に持って叩いてみると良いかと思う。

バチで打つ前に腕全部を上に持ち上げ、腕を下ろす動作と一緒に手首を柔らかく使う。
打楽器として扱うと、腕全体手首、2つの動作を連動させることが体感として分かると思う。

これはピアノでも同じである。
ピアノでは指がバチであり、腕と手首は同じ動きを使うのである。

よくある演奏法では「弾いた後に手首で力を逃す」使い方があると思う。
日本でよく目にする奏法である。

ここに落とし穴がある。
腕の重さを鍵盤に柔らかく届けるには、この手首の使い方ではできないのだ。

手首は、「弾く前」「弾いた後」どちらとも使うのだ。

弾く前の手首の動きは、人を呼ぶときの「手招き」する動きを使う。

ロシアンピアニズム,ロシアピアニズムロシアンピアニズム,ロシアピアニズムロシアンピアニズム,ロシアピアニズム

「腕全体の動き」と「手招き」の動作を連動させ、腕の重さを鍵盤に届け後は、手首を「斜め前」に持ち上げる。
この「弾く前」と「弾いた後」の動作をセットとして考え徹底して磨いていくと、手首がエンジンという言葉の意味を体感できるだろう。

詳しくはYouTube上で説明していますので、コチラからご覧ください。
腕全体と手首の動きがわかったなら、基礎的な手のポジションを知らなくてはいけない。

また次回

ショパンピアニズムの基礎 ④「打楽器ピアノ」

前回ショパンピアニズムの基礎③「企業秘密」の続き

腕と手首の使い方を学ぶには、まずは楽器のことを知らなければならない。
ピアノは歌手のように歌うこともできれば、オーケストラの様々な楽器の音を再現することもできる。
どのようにも姿を変えることのできる楽器であるが、ピアノは打楽器なのだ。
小学校で習う内容であるが、ピアノが打楽器であると意識している方は少ないのではないだろうか。
それがよく分かる言葉がある。

鍵盤を叩かないで

この言葉をどれだけ聞いたか分からない。そのくらいピアノは叩いてはいけない楽器なのだ。
打楽器で叩いてはいけないというのは、実はとてもおかしな話なのだ。

しかし、現に上から叩くと嫌な音がなる。その原因はとても単純なところにある。

ピアノを木琴・鉄琴に置き換えると分かりやすい。木琴・鉄琴を鳴らすにはバチがいる。
木琴・鉄琴を鳴らす上で、打楽器奏者が絶対にやらないことがある。
それはバチの先端を意識して叩くことだ。
バチの先端を意識して叩くと誰が演奏しても嫌な音がなる。打撃音に変わってしまうのだ。

ピアノでいうとバチは指である。バチの先端に意識があるということは、指先に意識があるということである。
指先に意識がある段階で、打撃音に変わってしまうのだ。これが鍵盤を叩いてしまう人の原因である。

つまり、ショパンピアニズムではピアノを弾くときに指先の意識はないのだ。
指先に意識を持たないというのは技術であり、これが身につかなければショパンピアニズムは達成できない。

このことを体感的に分かる方法がある。以下の実験をしてもらいたい。
消しゴム付きの鉛筆を用意してもらい、ゴム側で以下の画像のように打鍵するのだ。

その時に、鉛筆の先に意識を持って打鍵するのと、意識を持たないでピアノを打楽器だと思って打鍵する2種類を試してほしい。
いかに先端の意識が音を汚くするか理解できるかと思う。

そしてこの時の腕の動き、手首の動きを指で打鍵する時にも取り入れるのだ。
ピアノが打楽器であると理解することは、ショパンピアニズムのとても大切な基礎である。

YouTubeの動画で以上のことを詳しく説明しているのでコチラから合わせてご覧ください。

この意識を持てたなら、ショパンピアニズムの第一歩を踏めたのだ。
以上のことを踏まえた上で詳しい手首の使い方を知らなくてはいけない。

また次回

ショパンピアニズムの基礎 ③ 「企業秘密」

前回ショパンピアニズムの基礎②の続き

ショパンピアニズムでは「音量=重さ×打鍵の速度」を基本にタッチを作っていく。
前回述べた腕の重さを鍵盤に伝えるには手のひらの使い方を知らなくてはいけない。
では、手のひらをどうすればいいのか。

それは「掴む」という動作が大きく関わってくる。
下の画像を見てもらうと分かるが、手のひらの中心で物を掴んでいる。

ロシアンピアニズム 手
ロシアンピアニズム 手

これはボールでもなんでも構わない。自分の手の大きさにあったものでやってもらうと良いかと思う。
そしてこの「掴む」動作、演奏中には1秒も緩めることはない。この手のひらの筋肉は、演奏中はズーーーーーット休めないのだ。ここに一般的にされている「脱力」を意識した奏法との決定的な違いがある。ショパンピアニズムでは、この筋肉を緩めることは一切せず、その代わり他の部分はほとんど使わない。脱力という言葉が信仰のように崇められているが、そこから抜け出せないでいるとショパンのピアニズムは身につかない。
脱力ではなく、必要な力を最低限使うという考え方にしてみると良いかと思う。

上の説明をYouTubeの動画内で説明しています。コチラからご覧になってください。

掴む時に使う筋肉を名称でいうと、

虫様筋 〜 第2~5指の基節をまげる
母指内転筋 〜 母指を内転する
母指対立筋 〜 母指の基部を小指の方に引く
短小指屈筋 〜 小指の基節をまげる
小指対立筋 〜 第5中手骨を母指の方に引く

指先を使うタッチには、これに以下が加わる。

長母指屈筋 〜 母指の基節と末節をまげる
短母指屈筋 〜 母指の基節をまげる
浅指屈筋 〜 第2~5指の中節と基節をまげる
深指屈筋 〜 第2~5指の各節をまげる

上記はショパンピアニズムの企業秘密であり、最も基礎的で最も大切なことである。
日本でこのことを知っているピアニスト・ピアノ教師が果たして何人いるのだろうか。

そしてこの手のひらの使い方をして、ようやく腕の重さを鍵盤にまで伝えることができる。
一般的な奏法では腕の重さは手首で分断されている。つまり手首から先の重さしか使えないのだ。
この手のひらの支えがあることで、腕の重さが手首で分断されず鍵盤まで届けることができる。

手のひらの状態を知れたら、次は腕と手首の使い方を知らなければならない。

また次回